2025 年 4 月 30 日に発表されたプレスリリース 「GARDP research reveals that people with multidrug-resistant infections in low- and middle-income countries don’t have access to appropriate treatment」の抄訳です。

  • 8 つの主要な低中所得国において、薬剤耐性菌感染症患者のうち適切な抗菌薬による治療を受けられたのは、わずか 6.9%でした。
  • これまで薬剤耐性(AMR)に関する議論は、抗菌薬の「過剰使用」に偏重し、「命を救う治療へのアクセス」という課題は見過ごされてきました。
  • 今後は、アクセスの改善と、有効な抗菌薬の開発に最優先で取り組む必要があります。

スイス・ジュネーブ発–  グローバル抗菌薬研究開発パートナーシップ(GARDP)が実施した調査により、低中所得国(LIMCs)において多剤耐性菌感染症の大多数が適切に治療されていない実態が明らかになりました。これは、治療に必要な抗菌薬へのアクセスに深刻なギャップが存在するためです。調査は、抗菌薬へのアクセス改善と薬剤耐性菌に有効な新たな抗菌薬の開発を国際的に優先すべきであることを示しています。

本調査は、「The Lancet Infectious Diseases」誌に掲載されました。対象となったのは、地理的にも人口規模的にも多様な 8 カ国(バングラデシュ、ブラジル、エジプト、インド、ケニア、メキシコ、パキスタン、南

アフリカ)における、カルバペネム耐性グラム陰性菌(CRGN)感染症の約 150 万例です。調査では、 2019 年の CRGN 感染症による死亡数を『The Lancet』誌に掲載された GRAM(Global Burden of Antimicrobial Resistance)調査の推計に基づいて集計し、症例致死率と組み合わせて総感染数を算出。さらに、CRGN に有効な 6 種類の抗菌薬の販売データを用いて、実際に適切な治療を受けたと見られる患者数を推定しました。

その結果、適切な抗菌薬治療を受けたのは全体のわずか 6.9%に過ぎず、国ごとの割合は 0.2%から 14.9%までと極めて低水準でした。このような深刻なアクセス不足は、すでに AMR 関連の罹患率・死亡率が最も高いとされる LMICs において、さらなる悪化を引き起こす可能性があります。また、治療の遅れや不適切な治療は、患者の症状を悪化させ、治療をより困難にする要因にもなり得ます。

GARDP  のグローバルアクセス・ディレクターであり、本調査の責任著者であるジェニファー・コーン医師は、

「長年、抗菌薬の“使い過ぎ”ばかりが語られてきましたが、現実には、多くの人が必要な抗菌薬にアクセスできていないのです。一部の国では、革新的で積極的な取り組みが始まっていますが、より多くの国で、より多くの資源を投入する必要があります」と述べています。

抗菌薬の研究開発は過去数十年にわたって低迷しており、多くの大手製薬企業が市場から撤退しました。こうした市場の失敗がアクセス不足の主要因となっています。抗菌薬は他の医薬品に比べて製造が複雑でコストが高く、収益性も低いうえ、規制要件も厳しいため、新薬の開発は進まず、既存薬の製造や登録・商業化も限られた国でしか行われていません。

薬剤耐性はすでに年間 471 万人の死因に関与しており、世界最大級の死因のひとつです。本調査は、最近発表された GRAM 調査の知見を踏まえており、AMR の状況が重大な転換点にあることを示しています。近年まで AMR 関連の死亡率は比較的安定していましたが、今後は急激に増加し、2050 年までに AMR 関連死は 70%以上増加するとの予測があります。その主因は、治療が難しいグラム陰性菌感染症の拡大と、世界的に効果的な抗菌薬へのアクセスが不足していることです。GRAM 調査によれば、アクセス改善により 5,000 万人以上の命が救える可能性があるとされています。

対象となった 8 カ国の保健省は、AMR 対策として戦略的かつ効果的な介入策の策定を進めていますが、なお多くのギャップが残されており、これらのプログラムにはさらなる資金が必要です。本調査の著者らは、医療機関へのアクセス不足や診断体制の不備、治療薬不足など、様々な要因が治療へのアクセスを妨げている可能性が高いと指摘し、個別の障害を明らかにするための追加調査が必要であると述べていま す。

GARDP の代表であるマニカ・バラセガラム医師は、「本調査は、これまで見過ごされてきた AMR の側面、すなわち “治療の大きな空白” に光を当てるものです。そしてそれにより人々が命を落としているという事実も明らかになりました。このデータは、研究開発とアクセス強化へ焦点を転換すべき時であることを示しています。最終的に優先すべきなのは、人の命を救うことなのです」と述べています。

GARDP  は現在、薬剤耐性菌感染症の負荷が高い国々との連携を通じて、製品開発とアクセスへの支援を行い、公衆衛生上の効果・価格の手頃さ・アクセスを重視する新たな  R&D  モデルの構築を進めています。GARDP  とそのパートナーは、革新的な抗菌薬をより効率的に開発し、世界中の人々が適切な治療を受けられるよう、新しい官民連携の形を築いています。GARDP  のユニークなパートナーシップモデルは、世界保健機関(WHO)が指定する重要病原体や、公衆衛生上大きな脅威となっている多剤耐性菌に焦点を当て、新しい治療薬の開発とアクセス改善を目的としています。

本研究は 8 カ国を対象としていますが、新しい抗菌薬の多くがごく限られた裕福な国でしか承認されていないという現状を踏まえると、今回の結果はより広範な傾向を示していると考えられます。GRAM  および IQVIA 社のデータには一定の不確実性がありますが、最初に行った分析を大幅に調整したとしても、治療におけるギャップの存在は否定できません。著者らは、これは初の試算であり、より詳細な実態を明らかにするにはさらなるデータが必要だと強調しています。

本研究は、ペンシルベニア大学ペレルマン医学部およびメリーランド大学医学部診断イノベーションセンターの研究者との協力のもと、GARDP が資金提供および実施を行いました。

GARDP | Global Antibiotic Research and Development Partnership

(グローバル抗菌薬研究開発パートナーシップ)

GARDP(ガードピー)は、公衆衛生上の深刻な問題のひとつである薬剤耐性菌感染症の増加と蔓延から人々を守るために活動する非営利のグローバルヘルス組織です。私たちは、官民パートナーシップを通じ、抗菌薬を必要とする人々のために抗菌薬および抗菌治療法を開発し、利用できるようにしています。私たちの活動は、カナダ、ドイツ、日本、モナコ、オランダ、スイス、英国、ジュネーブ州政府、欧州連合

(EU)、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、グローバルヘルス EDCTP3、GSK、RIGHT 財団、南アフリカ医学研究評議会(SAMRC)、ウェルカム財団からの支援で支えられています。www.gardp.org